メタルコア(金属築造)の有無に関わらず、失活歯や生活歯においても長期的には歯質の色合いが黒褐色やくすんだ茶系色に変化することが認められる。 オールセラミック冠においては歯頸部付近では明らかに明度の変化が認められるが、神経を取ったばかりの歯質は最初はアイボリーの健康象牙質の色合いであったものが10年も経てば暗色に変化する。 生活象牙質の変色も加齢に応じて進み歯冠全体に明るさの低下が生ずることから、10年以上のスパンなら必ずしもメタルフリー修復が審美的優位性を保てるかは確かでない。 以下はキャスタブルセラミック(e.max等)やジルコニアのようなオールセラミック冠の構成の簡単な図示と中切歯に同条件で背景歯質(築造体)の明度を変えた場合の透過色の反映状態、および築造体や歯頚部ふくむ象牙質の変色への対応法と、長期に審美性を維持しているメタルボンド冠修復の例である。
オールセラミック冠とメタルボンド冠
オールセラミック冠は一部のジルコニアのように透過性を抑えた素材に通法のセラミックを築盛する場合は背景色の透過は少ないが、メタルボンドのような質感が審美性を追求するには不利となる。 下の症例画像にもあるように、背景となる築造体に白色系のオペークレジンを接着させたり、いずれは変化するもののホワイトニングでファイバーコアーの底部の象牙質を漂白することもある。
オールセラミック冠は光が透過する
陶材焼き付け冠(メタルボンド)は金属フレームとセラミック層の間に背景色を隠すオペーク(opaque)陶材が焼き付けられているので、背景色を気にせず修復が可能となるが、メタルとオペーク層とセラミック層の3層分の厚みが必要で、スペースが確保できないと透明感の少ない修復物となりやすい。
陶材焼き付け冠は金属フレームが内面を覆い透過光を遮断する
背景色の変化による歯頸部透過
背景色(支台歯の色合い)は、セラミック層の厚みが少ない修復物辺縁に一番反映しやすく、とくに目立つのは上顎前歯の歯頚部付近である。 辺縁歯肉も薄いため角化が弱い方では修復物に透けるだけでなく歯根の色を拾う傾向もある。
*以下の例のように神経の失活した歯は代謝がなく内部から黒ずんでくる。 オールセラミック冠で象牙質の色の変化が冠セット後に生じると明るい歯面に”くすみ”が現れる。
臨床例
・失活歯の右上側切歯の歯頚部が6年くらいで暗さを呈したジルコニア冠
・失活した左上小臼歯の象牙質の色合いを反映したジルコニア冠
・歯質の量は充分でも失活して10年以上が過ぎ黒変した象牙質をホワイトニング後ファイバーコア築造
・残存歯質が薄く根面深くまで黒変した歯根にメタルコア築造後前方面にオペークレジンを接着処理
・やり替え治療で失活した前歯多数のため、陶材焼き付け冠(メタルボンド)にて修復したもの(現在16年経過)