歯科用3Dプリンター(Stereo lithography apparatus)による作業模型の現時点での検証

 口腔内の歯牙形状をデジタル記録できる光学スキャナーの登場で、歯科治療 (特に製作部面で) のIT化は急速に伸展してきたが、現時点では補綴修復物もマウスピース矯正のアライナーも全くの模型なしでの製作は容易ではない。  なかでも修復物の緻密な咬合の付与にはスキャナーで採得された咬合記録やディスプレイ上のバーチャル咬合器だけではミクロン単位の再現性は保証されない。 モノリシックジルコニアといったセラミックの上乗せ焼成がない修復物なら、デジタルワークフローで印象・設計・ミリング操作から仕上げまで、理論的には調整のほとんどない製作も可能なはずだが、範囲が広くなると後方臼歯や連続修復で咬合接触関係において多くの誤差が生じる。 
 またガラスセラミックや複数本のインプラント修復では模型上での作業が必要とされる場合も多く、実模型のない場合はデジタルデータ(.stl *, obj等)を立体模型に造形する3Dプリンターが活用されることとなる。 本サイトのテーマである修復治療には3Dプリンターのなかでも、おもに光造形方式(Stereo lithography:液槽光重合法)が採用される。 
*精度も高く安定性のあるインクジェット方式(参考)ならIOSデータから複数本のインプラント作業で超硬石膏を超える精度(シリコン印象時の誤差)が期待できるが非常に高価である!

義歯への応用

形成された歯牙模型

 この光造形は積層造形法の一種であるが紫外線を当てることにより液体の光硬化性樹脂(レジン)を硬化させ、それを一層ずつ積層することで目的の立体物を製作する。 造形終了後は表面に残った未硬化樹脂をアルコールや有機溶剤で洗浄、その後サポート材を除去し、樹脂によっては二次硬化を経て完成となる。 1980年代の後半には製品化されるが、歯科臨床に応用可能な精度を保持するようになったのは直近の10数年である。 

UVレーザーによるレジンの硬化

formlabs dental より

 光造形は歯科技工のデジタルワークの要となる技術であるが、現時点で操作性(手間)を除けば従来のシリコン系印象材から製作される石膏作業模型の安定性に及ばないものの、必要な時に再現可能なデータとしての保管性や記録性も兼ね合い、いずれは石膏依存の作業を前時代のものとする(かつてのデジタルカメラのような)可能性が高い。 光造形には光源の種類よりいくつかの方式があり、それぞれの特徴の簡単な紹介と歯科修復治療に応用する条件で現時点での情報を整理して評価・検討してみたい。  長足の進歩がある工学分野であり部外者として歯科臨床に活用していくための現時点でのポイントのみとりあげたい。  、

formlabs dental より


記事の目次

口腔内スキャナーと3Dプリンター

 2024年の改訂から歯科保険治療にも導入された口腔内スキャンであるが、現状では光学印象のデジタルデータから模型なしで1歯単位の硬質樹脂(レジン)ブロックをCAD/CAMで削り出し成形し、修復物として仕上げてから口腔内にセットされることが目的とされる。  感染性廃棄物の減少と歯科技工士の負担を減らし、貴重で高価な金属資源を使わずDX化にも寄与する施策である。 スキャナーもCAD/CAM器機も廉価なものではなく個人医院や技工所では導入が困難なことも想定されるが、いずれは当たり前のように歯科治療に必須なものとして利用されるであろう。 

口腔内スキャナーの3次元データの処理方法

 カメラで連続的に取得された小範囲の画像データの重ね合わせ(オーバーレイ)によって全歯列までの3次元データをシームレスに作成していきます。 異なるタイミングや異なる角度から取得された複数の画像データを一つの統合された画像として重ねるソフトウェアの処理で、以下のような手順を瞬時におこなっています。
 *歯面の濡れや反射があるとこの処理に誤差が起こりますので、被写体の乾燥やパウダーリングが真度・精度の向上に役立つと考えられます。

画像データの重ね合わせの手順

連続して撮影され位置合わせが完了した画像データを重ね合わせますが、これにより異なる情報を持つ画像が一つの画像として表示されます。

  1. 画像の準備:

重ね合わせるべき複数の画像データが連続してスキャンされます。

2. 基準点の設定:

各画像に共通する基準点(ランドマーク)が選定され、これらの基準点が画像同士の位置合わせを行うための基準となります。 口腔内では画像上の歯の形状や歯肉形体にランドマークが使用されます。

3.位置合わせ(レジストレーション):

基準点を基に、異なる画像データを空間的に一致させます。 

4.重ね合わせ(オーバーレイ):

画像データを重ね合わせ(オーバーレイ)て、複数の画像データを一つの統合された画像として重ねます。 自動的にソフトウェアが行い次工程へ渡される3Dデータファイルを作成します。

 口腔内スキャナーで全歯列を扱う機種が登場して15年程度であるが、利用範囲もアライナー矯正から歯冠修復に加え可撤式義歯(いわゆる入れ歯)にも応用が始まり、ワイヤレス化や軽量小型のカメラも市場に投入され使い勝手のさらなる向上も見込まれる。 従来、口腔形状記録には流動性があり数分で硬化し取り外しも容易なシリコンやアルジネートの印象材が利用されたが、全顎的な印象は患者にとっては苦痛をともなう時間ともなる。 印象内面に石膏やアクリルの模型材を填入硬化することで得られた歯列模型は従来の精密な歯科修復作業の起点になって来たが、作業が終われば保管場所に困り大切な模型なら破棄するタイミングも問題であった。
上述のように必要な時に3Dプリンターにより実模型も作製可能なスキャンデータは、デジタルX線画像のように定期的に撮影されれば口腔内の経時的変化が視覚的にも分りやすくなり、ディスプレー上の画像を動かせば衛生士の指導に役だったり、技工データを兼ね合わせれば修復物故障時の再製作も容易となるものである。

*当サイトの症例から単独前歯の製作手順をみると、以下のようにスキャンされたデジタルデータから光造形された模型上で、(データからのCAD/CAMで製作された)ジルコニアのフレームの調整やレイヤリング(色調合わせのセラミック追加築成)がおこなわれ、完成した修復物が口腔内に装着される。


光造形(SLA)の原理

 光造形(SLA:Stereolithography apparatus)は、3Dプリンターの一種で、液体状の光硬化性樹脂(レジン)を使用して物体を造形する技術です。 以下にその原理を簡単に説明します。

  1. 液体レジンの準備:
    光造形に使用するレジンは、紫外線(UV光)などの特定の波長の光を受けると硬化する性質を持っています。このレジンは、3Dプリンターの造形エリア内にある液槽に入れられます。

  2. 光源の照射
    SLAプリンターには、UVレーザーやDLP(デジタルライトプロセッサー)プロジェクター、液晶ディスプレイ等が搭載されており、この光源を使ってレジンに光を照射します。造形物の断面形状に沿って光を照射することで、その部分のレジンが硬化し、固体になります。

  3. 層ごとの積層
    光を照射して硬化させるのは、3Dモデルの断面ごとに少しずつ行われます。1層が硬化すると、造形プレートがわずかに下がり(または上がり)、次の層が硬化する準備が整います。このプロセスを繰り返し、多数の薄い層を積み重ねていくことで、立体物が徐々に形成されていきます。

  4. 完成と後処理
    すべての層が積み重なり、モデルが完成すると、造形プレートから硬化したオブジェクトが取り出されます。硬化が不十分な部分がある場合は、追加でUV光を照射して完全に硬化させます。最後に、余分なレジンを洗い流し、必要に応じて表面仕上げを行います。

 SLAは非常に高い精度と滑らかな表面仕上げを実現できるため、精密なパーツや美しい仕上がりを求める用途に適しています。 以下は光源による代表的な2方式のイメージ。


レーザー硬化方式 液体樹脂(光硬化レジン)に紫外線レーザーを当て、樹脂を点状に硬化させる方式です。 自由液面方式と吊下げ方式があります。

formlabs より


ディスプレイ硬化方式 液体樹脂(レジン)に、液晶ディスプレーを使って面で紫外線を当てる造形方式です。 プロジェクター方式も面光源である。

formlabsより

 


光造形の種類

光造形(SLA:Stereolithography Apparatus)の方式にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。 代表的な3方式とその特徴を以下に挙げます。 
参考)formlabs社の各種造形方式の詳細な比較

1. レーザーSLA (Laser SLA)

 紫外線をレーザーポインターのように照射して樹脂を硬化する方式です。「レーザーポインターのように」というのが特徴で、紫外線が点で1点に集中しているのでパワーが出しやすく、装置の大型化がしやすい為に大型の光造形出力が出来ることがメリットとして挙げられます。しかし、レーザーポインターで造形していきますので、レーザーポインター直径以下の形状が造形出来ないので小さく細かいディティールの造形に向かないのと、DLP,LCDタイプと異なり面で積層ではなく、一筆書きの用に造形するために出力に時間が掛かってしまう事や、可動部品が多くメンテナンスやミラーのクリーニングが必要になるのがデメリットとして挙げられます。

  • 特徴:
    • 高精度な造形が可能。
    • UVレーザーを使用して樹脂を硬化させる方式。
    • 造形速度は比較的遅いが、非常に細かいディテールを再現できる。
    • レジン槽の上からレーザーが照射されるトップダウン方式と、下から照射されるボトムアップ方式がある。
  • 用途:
    • 精密なプロトタイプや複雑なデザインを持つ部品の製造に適している。

2. DLP (Digital Light Processing)

 液体樹脂(レジン)に、プロジェクターを使って面で紫外線を当てる造形方式です。「面で造形をする」というのが特徴で、造形スピードが速く、出力品のディティールが他の種類と比べて高く、メンテナンス、消耗品も少ない為にイニシャルコストは高いですがランニングコストが安いことがメリットとして挙げられます。造形物の精度も高く、高精細で滑らかな造形が可能です。しかし、造形エリアを大きくするためには、DLPユニットが高価な為にコストが掛かってしまいますので安価で大型のDLP機の無いのが現状です。

  • 特徴:
    • プロジェクターを使用して一度に一層分の樹脂を硬化させる方式。
    • レーザーSLAよりも速い造形速度が得られるが、解像度はプロジェクターのピクセルサイズに依存する。
    • 通常はボトムアップ方式が採用されており、比較的コンパクトな装置が多い。
  • 用途:
    • 比較的高速で造形する必要がある場合に適しており、工業用パーツやジュエリーのプロトタイプなどに利用される。

3. LCD (Liquid Crystal Display)
MSLA (Masked Stereolithography)

DLP型と同様に「面で造形をする」タイプで、LCD型があります。プロジェクターではなく、液晶ディスプレイ(LCDパネル)を使用するのが特徴です。紫外線(UV)LEDライトをバックライトとし、液晶パネルに表示させて樹脂を硬化する方式です。特に、イニシャルコストを安く抑えることができるのがメリットとして挙げられます。解像度の高い液晶パネルを使用すれば、より精密な造形も可能となるでしょう。

しかし、液晶パネル(LCDパネル)は紫外線と熱に弱い特性も持っていますが、造形時に紫外線が当たりレジンが硬化する際に熱が発生する為に紫外線のパワーを上げられない事が多く、硬化に時間が掛かるなどの理由から出力品のディティールが若干甘くなり、液晶パネルを定期的に交換する必要がある為、イニシャルコストは安いですがランニングコストが高いことがデメリットとして挙げられます

  • 特徴:
    • 液晶マスク(LCDパネル)を使用して光を遮り、選択的にUV光を樹脂に照射する方式。
    • 一度に一層分を硬化させるため、DLPと同様に高速な造形が可能。
    • 解像度はLCDパネルのピクセル数に依存し、高解像度の造形が可能。
    • DLPよりも安価なことが多く、家庭用3Dプリンターとして人気がある。
  • 用途:
    • ミニチュアモデルや高解像度が求められる部品の製造に適している。



 以上の方式は歯科においては、少数の精密な造形物作製にはSLA、アライナー矯正のような多数の模型の同時作製には面光源のDLPやLCDが有利なようです。 

 SLA (Stereolithography)といった光造形によって最終的な咬合関係や隣接歯とのスペース調整のための歯列模型が製作されるが、ヒトの上下の歯の咬合接触関係は靭帯組織である歯根膜の緩衝分は補償されても、ミクロン単位で”高い低い”の接触関係が把握される。 現在時点で製作時間や機材費用から実際運用されてる光造形器では、歯冠咬合面裂溝や咬頭頂がなめられ本来の鋭利な形態の再現性が劣る。 そのため最後臼歯や臼歯部ブリッジ修復のような多数歯の修復治療では誤差が大きく、セット時に口腔内での調整が前提となる。 全顎的再建治療のような最精密で緻密な咬合関係を上下顎に再建するにはまだまだ厳しく、模型材を使った従来法を超えることはまだ困難なようである。


光造形の精度(Precision)と真度(Trueness)

 2024年時点での口腔内スキャンデータから3Dプリンターで製作される作業模型の精度的な確認点はいくつかあります。  真度は実際の口腔内の形状にどれだけ近いかを示します。以下に臨床応用の際のチェック事項を簡単に記載します。 

 Stereolithography (SLA) 形式の3Dプリンターで作製された歯科用モデルにおいて、XY平面での経時的な特定ポイント間の寸法誤差は、通常0.1%から0.3%の範囲内で発生することが報告されています。この数値は使用する材料やプリンターのキャリブレーション状態、環境条件などに依存するため、具体的な数値はこれらの要因によって変動する可能性があります。  高精度なプリンターと適切な保守が行われている場合、誤差は最小限に抑えられますが、経時的な樹脂の収縮や応力緩和などによりわずかな変形が生じることがあります。このため、精密な適合が求められる場合には、定期的な寸法チェックと必要に応じた補正が推奨されます。 
 歯科修復治療の領域では5歯以上の連結修復には不向きで、複数本のスクリュー固定によるインプラント修復では、専用のアナログを組み込んでも最終的には口腔内で位置関係の確認操作をおこなう必要があるとされます。

Z軸での誤差は、使用する3Dプリンターの方式(Laser SLA、DLP、MSLA)および積層ピッチによって大きく影響されます。 造形物の積層をどのような角度でおこなうかで、表面の粗さや角のなめられ等が変化します。

光造形の積層ピッチ

*積層ピッチが小さいほど面が滑らか

光造形の角度

造形角度によって精度に微妙差が生じます

*各方式について比較すると以下のなります。

1. Laser SLA (Stereolithography)

  • 積層ピッチ: SLAプリンターでは、積層ピッチは通常25~100ミクロンの範囲で設定できます。積層ピッチが小さいほど、Z軸方向の解像度が高まり、表面の滑らかさと寸法精度が向上します。ただし、積層ピッチが小さい場合、プリント時間が長くなるというトレードオフがあります。
  • Z軸の誤差: 高品質なSLAプリンターでは、Z軸方向の寸法誤差は一般的に0.1%以下に抑えられますが、使用する樹脂や光硬化の精度により、多少の誤差が生じることがあります。

2. DLP (Digital Light Processing)

  • 積層ピッチ: DLPプリンターもSLA同様、25~100ミクロン程度の積層ピッチが一般的です。DLPでは1層ごとに全体を一度に硬化させるため、Z軸の精度は非常に高く、特に高解像度設定でのプリントでは非常に細かいディテールが再現されます。
  • Z軸の誤差: DLPプリンターでは、Z軸の寸法誤差は0.1%以下で、レーザーSLAと同程度かそれよりも優れる場合があります。

3. MSLA (Masked Stereolithography)

  • 積層ピッチ: MSLAプリンターでは、LCDを使って光をマスクすることで、層を一度に硬化させます。積層ピッチも25~100ミクロン程度が一般的ですが、使用するLCDパネルの解像度や光の均一性に依存します。
  • Z軸の誤差: MSLAプリンターのZ軸寸法誤差も一般的には0.1%以下で、特に高品質なプリンターでは非常に精密なプリントが可能です。ただし、LCDパネルの特性や光源の均一性が影響するため、設定や使用環境に注意が必要です。

総括

どの技術でも積層ピッチが小さいほどZ軸の精度は向上しますが、プリント時間が長くなる点を考慮する必要があります。また、積層ピッチの選択は、必要な精度とプリント時間のバランスを考慮して行うのが理想的です。


*精度・真度に影響をおよぼす諸要因

1. 解像度と精度の限界

3Dプリンターの解像度が高くなっているとはいえ、微細なディテールや非常に細かい構造物の再現には限界があります。特に、歯の表面の複雑な凹凸や微細な溝を正確に再現することが難しい場合があります。

2. マテリアルの制約

3Dプリンターで使用される材料の特性によっても精度が影響されます。例えば、収縮や歪みが生じやすい材料では、プリント後の寸法安定性が低下することがあります。また、硬さや耐久性の面で天然歯と同等の特性を持つ材料が限られているため、模型の実用性にも影響が出ることがあります。

3. スキャンデータの品質

口腔内スキャンのデータが高品質でなければ、3Dプリンターで製作される模型の精度も低下します。スキャンの際にデータが欠落したり、ノイズが多かったりすると、正確な模型を作成することが難しくなります。

4. プリントプロセスの影響

3Dプリンターのプロセス中に発生する振動や温度変動、造形物の重さや反りも最終的な模型の精度に影響を与えることがあります。これにより、寸法の誤差や形状の歪みが生じることがあります。

5. 後処理の必要性

プリント後の後処理が必要となる場合、手作業での修正が精度に影響を与えることがあります。特にサポート材の除去や表面の仕上げ作業が不十分であると、模型の寸法や形状に誤差が生じる可能性があります。

6. 機械的な限界

3Dプリンターの機械的な部品の摩耗やキャリブレーションのずれが精度に影響を与えることがあります。定期的なメンテナンスが必要ですが、それでも完全に防ぐことは難しい場合があります。


 <formlabs ホームページより> 3Dプリントにおける「解像度」は、プリンタ本体やメーカーごとに特徴や基準が異なり、標準化が難しい要素です。  造形品の精度は、液体レジンを硬化させる光のサイズ、形状、出力分布、そしてレジンの散乱性、ブリードアウト、重合特性など、さまざまな要素によって左右されます。 例えば、レジンの種類によっては他のレジンよりも光を散乱させやすく、そのために意図しない箇所まで硬化してしまい、繊細なディテールをうまく表現できないことがあります。 解像度という言葉はもともと、紙にインクを印刷するプリンタで「ドット/インチ」またはDPIと呼ばれていたものですが、X軸とY軸方向をカバーするインクと考えるとイメージしやすいかもしれません。 3Dプリントの普及に伴って「Z軸解像度」という概念が導入されたため、3Dプリントの「解像度」の定義や測定基準がさらに複雑になりました。最高の解像度を誇る3Dプリント方式やメーカーを決めるには、XY平面でパーツを正確にトレースする能力と、Z軸の最小積層ピッチの両方を考慮する必要があります。ただし、意図したパターンを正確にトレースできるかどうかは、いくつかの要素によって左右されます。


光造形とシリコン印象+石膏模型の比較

・歯科用超硬石膏の場合は硬化過程での膨張が起こりますが、SLA(Stereolithography)では一般的に硬化時に収縮が生じます。

・石膏材は硬化する際にクリスタル構造が形成され、これに伴ってわずかな体積膨張が生じます。 一般的な歯科用石膏では、この膨張は約0.05%~0.3%程度とされています。 この膨張によって歯科模型と印象材からのキャスティングにおいて寸法の精度を確保することが可能になります。 SLAの収縮とは異なり、石膏の膨張は使用目的に応じて管理されており、精密な印象や模型を作成するための重要な要素となっています。

・歯科用超硬石膏のXY軸の精度は、製品や条件によって異なりますが、一般的には硬化時における100mm間の寸法精度で、おおよそ±10~50μm程度とされています。 ただし、この数値は使用する石膏の種類、混合方法、環境条件(温度・湿度)などによって変動します。

・ SLA形式の3Dプリンターで作製された歯科用モデルにおいて、XY平面での経時的な特定ポイント間の寸法誤差は、通常0.1%から0.3%の範囲内で発生することが報告されています。この数値は使用する材料やプリンターのキャリブレーション状態、環境条件などに依存するため、具体的な数値はこれらの要因によって多少変動する可能性があります。

・高精度なプリンターが適切な保守が行われている場合、誤差は最小限に抑えられますが、経時的な樹脂の収縮や応力緩和などにより、わずかな変形が生じることがあります。このため、精密な適合が求められる場合には、定期的な寸法チェックと必要に応じた補正が推奨されます。 業務用の3Dプリンターの耐用年数は2年以内ともされますが、精緻な製作を保証し誤差発生を回避のためには已む得ないものといえます。

*歯科におけるシリコン印象による石膏模型と口腔内スキャンからのSLA(Stereolithography Apparatus)模型の精度および真度を比較する際、以下の点が重要です。

1. シリコン印象による石膏模型

  • 精度(Accuracy): シリコン印象材は高い精度で口腔内の形状を再現できます。しかし、印象材の取り扱い、気泡の混入、印象材の収縮などが精度に影響を与える可能性があります。また、石膏の流し込みや硬化時の変形もわずかに影響を与えることがあります。
  • 真度(Trueness): 真度は実際の口腔内の形状にどれだけ近いかを示します。石膏模型は非常に高い真度を持つことが多いですが、印象材の硬化過程や石膏の性質によってわずかな変形が生じる可能性があります。

2. 口腔内スキャンからのSLA模型

  • 精度(Accuracy): 口腔内スキャンは高解像度のデジタルデータを取得できるため、非常に高い精度を持っています。ただし、スキャン時の環境(例えば、唾液や動き)やスキャナーのキャリブレーション状態が精度に影響を与えることがあります。
  • 真度(Trueness): SLA技術を用いた3Dプリンティングは、デジタルデータに基づいて非常に高い真度で模型を作成します。ただし、3Dプリンティングのプロセスで発生する収縮や層の積層による微細な不正確さが真度に影響を与えることがあります。

比較と結論

  • 精度の比較: 両者ともに非常に高い精度を持っていますが、シリコン印象では物理的な変形や操作による影響が、口腔内スキャンではデジタルデータの取得精度とプリントプロセスの影響がそれぞれの精度に影響を与えます。口腔内スキャンからのSLA模型の方が、特にデジタルプロセスにおいて一貫性が高いため、精度が安定しているとされることが多いです。
  • 真度の比較: 真度においては、シリコン印象と石膏模型は長年の臨床経験から非常に高い真度を示すことがわかっていますが、口腔内スキャンとSLA模型も近年の技術進歩により真度が非常に高くなっています。デジタルデータからの直接的な模型作成は、誤差が少なく、真度が高いとされることが多いです。

総じて口腔内スキャンからのSLA模型は、デジタル技術の進歩により高い精度と真度を誇る一方で、従来のシリコン印象と石膏模型も依然として信頼性の高い方法です。選択肢は、臨床の状況、コスト、患者のニーズ、そして治療計画に依存します。


参考 )部分床義歯模型をスキャナー印象しSLAによるレジン模型で適合比較

石膏模型をスキャン

適合の誤差は微妙

参考 )大臼歯部連続2歯の修復


現状のまとめ

現状での精密シリコン印象(型取り)からの超硬石膏作用模型と比較した光造形で製作された作業模型

  • 後方臼歯になるほど咬合調整が増える(咬頭と裂溝がなめられやすいから? XY軸での収縮)
  • 臼歯部3ユニット以上のブリッジでは咬合接触関係が不安
  • 実模型な修復では鋭利な面のなめられ考慮
  • 広範囲のインプラント補綴では口腔内インデックスを介して石膏模型へのトランスファーが要諦
  • 緻密な咬合接触関係の付与には旧来の石膏模型を利用する
  • SLA模型は収縮と反りと剥離時の応力による変形を考慮

<補足> *stl. は 3D System(3D システム)社によって開発されたファイル形式でデータの編集は難しいが、3Dプリントをする上での標準形式となっており、多くのCADソフトウェアで読み込みや書き出しが可能。

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