歯科領域でもコンピューターの支援があって初めて成立する治療分野が増えています。 CTから得られる3次元データを利用しインプラントの設計に応じて埋入方向をシミュレーションしたり、 ”Invisaline”のようにCAD/CAMにより歯牙移動ステップに対応した矯正用マウスピースを一気に作り上げたり、修復分野では口腔内スキャナーによる光学印象やジルコニア冠の設計とミリング加工等、枚挙に暇がないくらいです。
しかしながら、このサイトのテーマである補綴修復分野で新旧の治療法を比較をしますと、Longevityすなわち耐久性については旧来の方法に軍配をあげます。 歯牙形成や印象採得(型取り)製作の精密さが履行されれば、手作業でおこなわれる修復治療では30μ(ミクロン)に迫る支台歯との適合が達成可能で(緻密な咬合接触関係確立の前提でもありますが)、その精度には現在のCAD/CAM修復は追いついていません。 客観的に検討すると以下のような違いがあげられます。
形成法でみればCAD/CAM器機(スキャナーやミリングマシン)が設計し作りやすい形態が要求されるので、維持力の要である切り立ったようなシャープな筒状の形成より、丸みがあり切削量の増える厚みのある形成となります。
歯科技工でみればジルコニアを代表とする成型前のディスクやブロックからのミリングマシーンといった数方向(4~5軸)からのドリルによる切削加工技術は、誤差発生回避のため各種パラメータに遊び(余裕)を確保しているので、ワックスや模型の微妙なスペース調整のような配慮はなされず、修復物が形成歯に対して緩めに設計製作されています。 特に連結冠やブリッジの場合にその傾向が大きくなります。 それゆえ修復物は接着性のあるセメントの維持力に依存するもので、接着力の低下しやすい湿潤な口腔環境では工業的精度が必ずしも発揮できないと危惧されます。 冷熱変化や給水に対する物性の低下は近年の化学的接着セメントでは長期の検証がなされていません。 従来セメントを利用した本当に優れたメタル修復は、(修復治療の聖書のようなcast gold restoration に記載された要件を守るような修復物)は30年経っても維持されます。
ここでは審美やメタルフリーを大きく取り上げており先進的なシステムも紹介してまいりますが、多くの歯科医師は自分の臼歯(奥歯)の治療には強度と耐久性から従来法の手作業の歯科技工物を装着してるのも現実です。
以下は今では修復治療のなかで失われた技術(Lost Technology)の集積ともいえる症例です。
中年期までコンプレックスのあった隙間だらけの6前歯の矯正後に歯牙形成からピンレッジ(pinledge)と陶材焼き付け冠(porcerain fused to metal crown)をそれぞれワックスで形態を作り、鋳造操作により金属冠を単独製作。それらを連結固定処置のために口腔内インデックスという位置関係の精密な記録、連結部以外を埋没材に埋め、800度を超えた金蝋(金ろう)を溶かしロウ付け(溶接)する作業をおこなっています。
米国移住するまで20年以上経過していました男性の例です。