近年、歯冠部歯質が十分でないケースの歯冠修復で、象牙質の弾性に近く歯根ハセツの危険性が低減するとされるグラスファーバーのポストに樹脂材料(レジン)を固めたファイバーコアの利用が増えている。 透過性のあるオールセラミック修復にも明るい素材のため自然感があり重宝されるが、適正なポストサイズの選択と築造の形体付与によっては強度が不足することと、失活歯のフェルーレという立ち上がりの充分な歯質の存在がないと、脱離や破断が容易に発現する。 グラスファイバーのメインポストは前歯の薄い歯や根管の狭小な下顎前歯等では絶対的に強度が不足することが分っている。 安易なメタルフリーよりケース・バイ・ケースで金属築造と適宜使い分けていくのが肝要である。 一方、失活歯の歯根ハセツを惹起しやすいとされるメタルコアは、強度が十分な素材で歯槽骨頂から歯根の先の2/3まで細く長く適合よく作られたものは、たやすく歯根ハセツをおこさない。 いずれの方法でも浅いポストは残存象牙質ごとハセツすることが頻繁に認められる。 失活歯より生活歯が良いことも自明であるが、生活歯も歯髄が後退すれば残った象牙質は簡単に折れるように短時間では見えてこない問題もある。 以下それぞれの比較や手技、各種築造方法の紹介する。
フェルーレについて
樽がバラバラにならないよう締め付けワイヤーのような働きをするものをフェルーレ(ferrule)と言いますが、歯根表面の残存歯質に高さとボリュームがあれば、この立ち上がりの部分がクラウンに抱え込まれて歯根のハセツに抵抗すると考えられます。 しかしながら、実際臨床では残存歯質があれば築造体のポストも短めになる傾向もあり、フェルーレ部分ふくむ歯質まるごとがハセツして来た症例も枚挙に暇がありません。 フェルーレが有効なのは歯髄を除去して間もない頃の歯質にまだ粘りがある状態の時期であり、失活して10年もたてば口径の細い切歯や小臼歯にはフェルーレ効果は低減すると考えます。
十分なフェルーレがあったがハセツ線が入った小臼歯
フェルーレ含む残存歯質のハセツにより脱落したファイバーポスト
1. 築造処置とは
歯に被せものをする時に修復物が簡単に取れない(脱離しない)ように築造処置がおこなわれる。 ムシ歯や外傷で歯冠の実質欠損が大きな歯では歯の機能回復と残存歯質の保護、審美的再建のため全部被覆冠による修復がおこなわれる。 歯冠修復は脱離力に抵抗するため(簡単に外れないため)、セメントが介在する筒状構造(浅い角度をもつ内筒・外筒の形状)が付与されるが、高さ(筒の深さに当たる)と表層面の角度(軸面テーパー)と面積によって機械的な維持力は決定する。 そのため丁度内筒にあたる当該歯質に高さやボリュームが不足する場合は、それを補うように築造と呼ばれる、金属や硬質樹脂を利用した修復作業がおこなわれる。 残存歯冠内に充填剤を接着するだけでは咬合圧に抵抗できない場合、歯髄を取った失活歯においては根管充填処置後の根管内に所要のポスト形成をして築造体の維持力に与することとする。 すでに歯冠修復をされた歯のやり替えにおいては多くが根管充填処置もなされており、根管内に維持を求める築造処置が一般的であるが、残存歯質の状態や単独歯・連結歯、歯の高さ・薄さ等で以下のように、築造処置の種類や適応が選択される。
2. 築造処置の種類
・メタルコア築造
・ファイバーコア築造
・レジン築造
・生活歯への築造
築造処置におけるメタルコアとファイバーコアの利点と欠点、および適応と非適応について以下にまとめます。
メタルコア
利点
- 強度: メタルコアは非常に高い強度を持ち、咬合力の強い患者や後方の歯に適しています。
- 耐久性: 長期間の使用に耐えることが可能です。
- 費用対効果: 一般的にファイバーコアよりも安価ですが、大臼歯で金白金系の金属では材料代のみで3万円前後になります。
- 欠点
- 審美性: メタルコアは光を透過しないため、透けて見えることがあります。特に前歯部で審美性に欠ける場合があります。
- エラスティシティ: 歯質と比較してエラスティシティが低いため、力が集中しやすく、歯根破折のリスクがあります。
- 電気化学的腐食: 口腔内の環境により、金属が腐食することがあります。
- シルバーを含む合金では歯根や歯肉を黒変させることがあります。
適応
- 咬合力が強い患者
- 後方の大臼歯
- 築造強度が必要な薄い前歯や下顎前歯
- 高径のない歯冠で築造体上面にピンホール等の維持形態を付与したい場合
- 生活歯根にもピンを付与し応用は可能
非適応
- 審美性が重要な前歯部で透過性の高いオールセラミック修復をする場合
*コア前面にオぺーク層を接着して対応可 - 歯根が脆弱な場合
ファイバーコア
利点
- 審美性: ファイバーコアは光を透過するため、自然な外観を保ちやすく、特に前歯部での審美性が高いです。
- エラスティシティ: 歯質に近いエラスティシティを持ち、力が分散しやすく、歯根破折のリスクを軽減します。
- 金属アレルギーの回避: 金属を使用しないため、金属アレルギーの患者にも適しています。
欠点
- 強度: メタルコアに比べて強度が劣り、咬合力の強い部位では破損のリスクがあります。
- 維持力: メタルコアよりも修復物の維持力は弱くなります。
- テクニックセンシティブ: 装着時に高い技術が要求されます。 特に防湿の難しい下顎臼歯位。
適応
- 審美性が重要な前歯部
- 歯根が脆弱で、力を分散させたい場合
- 金属アレルギーの患者
非適応
- フェルーレという歯根歯質の立ち上がりの残存がない場合
- 咬合力が強い患者 特に前歯部位
- 下顎後方の歯(大臼歯など)で接着にかかわる防湿が難しい場合
- 前歯の薄い歯
- 下顎前歯で口径の細いポストの場合
まとめ
メタルコアとファイバーコアはそれぞれ異なる特性を持っており、患者の個々の状況に応じて適切な選択が必要です。審美性や力の分散が重要な場合はファイバーコア、強度や耐久性が求められる場合はメタルコアが適しています。患者の口腔内環境や治療目的に応じて最適な選択を行うことが重要です。
3. メタルコア(金属鋳造体)
メタルコアは印象採得(型取り)して得られた口腔内の歯牙形状を模型に再現して、修復物を安定維持できるようポストを含めた形態を技工用のワックスでに成形し(蝋形)、鋳造によって金属体に置き換え製作される。
以下、小臼歯部メタルコアのセットの手順と根管ポストの方向の異なる大臼歯部の分割コアについて図示する。
メタルコアセットのセット(スーパーボンド使用)
メタルコアセットの手順
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根管内にポスト形成
印象からの模型
模型上のメタルコア
ポスト表面は粗造
セメント除去
サンドブラスト清掃
ポストの試し入れ
根内面のエッチング
根管ブラシ
水洗い
ブラシにて洗浄
内面の乾燥
さらに乾燥
ポストの乾燥
接着セメントの填入
メタルコアの装着
硬化まで浮き上がり防止
セメント除去後
大臼歯の分割コア
大臼歯の分割メタルコア
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根管内にポスト形成
印象採得され模型製作
鋳造体とポスト
ポスト挿入前のコア
ポスト挿入時のコア
口腔内試適
遠心根にポスト試適
セメント合着時
- オールセラミックの透過性に対応したメタルコアの表面処理
残存歯質が少ない前歯部でメタルコアを選択し、セット後接着性材料を介してオペークレジン材にて表面処理をおこなう。 オールセラミック冠でも明るさを保持。
- 薄い前歯への修復物保持用ピンホールを付与したメタルコア
対合前歯が深く咬みこんでいたり上顎前歯が厚みが全くない場合に、失活歯ならポスト口蓋側に所要の深さと口径のあるポストをメタルコアに掘り込むことにより、脱離や転覆力に抗する維持力を発揮できる。 通常は内面がメタルの陶材焼き付け冠に向いているが、ポストが太ければジルコニア冠でも可能となる。
4. ファイバーコア(ポスト)
1.間接法
印象採得(型取り)して得られた口腔内の歯牙形状を模型に再現して、長さ・高径に合致した適切なポストを選択して、接着処理後にポストにレジンを巻きつけるように重合硬化させます。 歯冠の築造部は適切な形態に造形して口腔内での調整が少ないようにします。 口腔内当該歯面や根管内はブラシやサンドブラスト利用して最良の接着が得られるようにします。
2.直接法
・適切なサイズの切削器具で根管内にポスト形成をして、残存歯質や根管内はブラシやサンドブラストを利用して清潔にして接着にそなえます。 試し入れし選択したファイバーポストも清掃と接着処理をして、根管内に接着性のレジン材料(または接着セメント)を填入します。
・ポストを底部まで挿入し、硬化が進まないうちに対合歯との接触関係を考慮してポストの方向を微調整します。 歯冠部にも築造材(レジン)でおおまかな形態を付与します。 ファイバーポストは光透過性なので、レジン重合用の光照射器をポスト先端に当て根管内部まで速やかにレジンを固化させ、支台歯形成をおこないます。
ファイバーポスト直接法の手順
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根管内にポスト形成
築造前の前面観
ファイバーポストの選択
ポストは表面処理
根内面の清掃ほか
根内面の処理
接着前処理後の乾燥
ポスト長の最終確認
根管内にセメント填入
コア用レジンの填入
照射器も使って硬化
形態修正
- ファイバーコアも脱離や歯根破折をおこします。
5. 既製ポストとレジンによる築造
グラスファイバーのポストが一般化するまでは、レジン築造の補強に使われる根管ポストはメーカー製の既製のポストでした。 ステンレスやチタンで耐食性があり細くとも強度が高い特性とセメントとレジンを保持しやすいスレッド構造が付与されています。 大臼歯の方向の違う根管ポストに鋳造体の中に差し込まれる形で利用されることもあります。 ファイバーポストとちがいポストを屈曲して利用できますので上顎前歯の突出観や脆弱性を回避する築造部の形態付与が可能です。
6. 生活歯への築造処置
歯髄生活歯も中高年層では歯冠部歯髄が後退して根面のみとなっている状態も多い。 歯冠がハセツしたり再治療の繰り返しで残存歯質が足らないと修復物の維持が困難となる。 このような条件では失活歯に準じて歯内療法を施し根管にポストを設置して築造処置をすることが一般的であるが、根管治療の予後への懸念もある。 歯髄を残したまま築造処置をする方法には、以下のような鋳造コアとピンによるメタルコアや、ねじ込みピンとコンポジットレジンに拠る直接築造が挙げられる。
- 高齢世代では生活歯も簡単に歯冠破折が発現します
歯冠ハセツ後に歯髄を取らずに金属築造
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*歯科関係者への専門的話となります!
残根象牙質上にピンホールを形成する場合には歯根外への穿孔と歯髄腔への穿孔が懸念されるが、ポケットプローブを歯肉溝に挿入して歯根の外壁を探知しながら外周から薄くならないような1.5mm位を確保してから、極小のラウンドバーで起支点をつくる。 各孔がほぼ平行になるよう2~3mmの深さに掘り込み、続いてプラスティックピンの規格に応じた170Lサイズのテーパー・カーバイドバーでピンホール形成を行う。 カウンターシンクという入口を丸めてから印象採得となる。 螺旋状のレンツロというバーを低速に回転させシリコン系の材料で印象し模型とする。 模型のピンホールにはプラスティックピンを入れ技工用ワックスで固定しほぼ平行になるよう柔らかいうちにワックスの出し入れをし、硬化したらコア部分の造形をして鋳造操作となる。 仕上げはレンツロを用いてセメントをピンホールに填入してセットする。
築造前の生活根面
4本のピンホール
模型前面
模型と金属築造体
築造体とピン
接着処理後の築造体
ねじ込みピンとレジンによる築造
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TMSピン(Thread Mate Systemピン)を用いたレジン築造は、欠損部を補強し築造の主体であるコンポジットレジンを安定させるために利用される方法です。 以下にその手順を説明します。
TMSピンを用いたレジン築造の手順
- 診断と計画
- まず、患歯の状態を診断し、TMSピンの使用が可能かを検討します。
- 使用するピンの数や位置を決定します。
- 準備
- 対象の歯を十分に清掃し、乾燥させます。
- 必要に応じてラバーダムを使用し、治療部位を隔離します。
- ピンの挿入
- まず、小さな孔をドリルで象牙質に穿けます。穴の深さと直径は、使用するTMSピンに合わせて調整します。
- ステンレス製のTMSピンを準備し、開けた穴にねじ込むように挿入します。通常、1~3本のピンを使用しますが、歯の状態により異なります。 接着性材料をスクリュースレッドに利用も可。
- ピンの調整
- ピンが適切に固定されたら、ピンの長さを適宜調整します。ピンが突出しすぎないようにカットし、歯の表面に対して平らになるようにします。 (レジンが硬化してから調整するほうが緩みを回避できます。)
- レジンの適用
- 適切なボンディング材を使用して、象牙質とピンの周囲に接着します。
- コンポジットレジンを少しずつ積層し、光照射器で硬化させます。ピンの周りにしっかりとレジンが結合するように注意します。
- 築造形態の調整
- レジンが完全に硬化したら、支台歯の形に形成調整します。
- 仮の歯をつくる場合はレジン同士がに接着しないようワセリンの被膜をつくります。
注意点
- ピンの挿入位置や深さは慎重に行う必要があります。ピンが歯髄に近すぎると、歯髄へのダメージのリスクがあります。
- ピンの数や位置は、歯の強度や形態に応じて適切に選択します。
- コンポジットレジンの適用時には、ピンの周囲にしっかりと結合するように注意します。
TMSピンを使用したレジン築造は、特に歯の損傷が大きい場合や、強度を補強する必要がある場合に有効です。正確な技術と経験が求められるため、慎重な手技が重要です。
生活歯へのピンとレジンによる築造
TMSピンシステム
4本のピンホール
ネジ込ピンにレジンを築造
築造体
残存歯質とピン
歯冠欠損部
ピンにレジンを築造
築造後の形成
*サイト内参考ページ (症例検索アプリで、”治療オプション<<スクリューピンの利用”で検索)